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団体紹介記事

「循環のまち」臼杵で、頼られる“脱炭素化コーディネーター”に

うすきエネルギー

「臼杵においても、これから新しい脱炭素に向けた取り組みにどんどんチャレンジしていく必要があると思っています。地域の色々な会社さんに関わってもらい、協働しながら創り上げていきたいです。」

穏やかながらも、ひとつひとつの言葉に芯の通った印象のある、小川拓哉さん。

うすきエネルギーの立ち上げに参画するため、東京から大分県臼杵市に移住してきて9年目。

現在39歳の小川さんは、うすきエネルギー株式会社の取締役として、地域の脱炭素化に向けた取り組みの企画・立案や、行政、地元事業者等との渉外調整を中心に、日々マネージャーとしての役割をこなしておられます。

大手コンサルタント会社から、地域を舞台にした仕事に魅力を感じて転身されたという小川さんに、うすきエネルギーでの仕事についてお話を伺いました。

△小川拓哉さん

地域とともにある、うすきエネルギー

元々、「いつか地域で仕事をしてみたいと考えていた」という小川さん。

福岡県出身で、幼いころからお父様の趣味である山登りや旅行を通して、自然環境への関心が高まっていったのだそう。

小川さんは、東京大学大学院農学研究科で森林政策や森林と経済との関係について研究したのち、大手コンサルティング会社へ就職。主に環境省や林野庁など、中央省庁に向けた調査委託業務に従事されていました。

コンサルタントや社会人としての経験を積んでいた入社5年目の頃、知人から

「臼杵市で林業事業を立ち上げるんだけど、一緒に手伝ってもらえない?」

と声をかけられたのがきっかけで、2015年、29歳で臼杵市へ。

林業事業の立ち上げ、うすきエネルギーの立ち上げを経て、今に至ります。

「元々学生時代から、30歳までは会社で、環境・エネルギー分野でのコンサルティングや、社会人としての仕事のやり方を学ばせてもらって、その後は地域の現場に入って自分で事業をやったり、大きく言うと地域活性化や地方創生のプレーヤーになりたいと思っていました。以前から友人や家族にもそう話していたし、このタイミングで声をかけてもらえたということに必然性を感じたんです。」

と、当時を振り返ります。

△うすきエネルギーロゴ

うすきエネルギーのオフィスは、使われていなかった旧豊洋中学校跡の建物の中にあります。また、発電所がある場所は敷地内のグラウンド。時に校舎周辺の草刈りや道路整備などを行っていると、地域の人からよく声をかけてもらえたり、「今度イベントで一緒に何かやろうよ」と誘われることがあるのだとか。

「私たちがここにいることを、ポジティブに捉えていただけているのかなと感じています。」

仕事以外でも、どうすれば地域のために役に立てるかを考えながら、地域活動などにも主体的に取り組まれているという小川さん。

地域の方と一緒に汗をかきながら、できることに積極的に関わられてきたことで、地域での信頼を積み上げてきているのでしょうね。

△うすきエネルギーのオフィス

△草刈り後の集合写真

臼杵の特色を生かしたバイオマス発電事業

臼杵市は、大分県の東海岸に位置し、臼杵湾に流れ込む臼杵川や末広川などの河川の源流があり、市内の森林等に降った雨が市民の生活用水、農業用水となり、それらが海に注がれる地形となっていて、同一自治体の中で水資源が「循環」しているという地理的な特徴があります。水資源が豊かであることから、農林水産業や味噌・醤油などの醸造業が盛んな地域です。

臼杵市では、そうした地域の特色を生かし、排出される木質や食品廃棄物、下水汚泥、家畜排せつ物などからバイオマス原料を生産して、収集・運搬・製造・利用まで一貫されたシステムを構築することで、産業の創出と、環境にやさしく災害に強いまちづくりをめざす「臼杵市バイオマス産業都市構想」を掲げています。

循環型社会の実現に向けたこのまちの理想像に近づくため、バイオマス発電所の立ち上げから運営までを担っているのが、うすきエネルギーです。

△発電所

うすきエネルギーでは、太陽光などの自然エネルギーによる発電から、外部からの電気の調達、電気の小売までを一手に行っていますが、このバイオマス発電所が、同社にとっても臼杵市にとっても、シンボル的な存在になっているのだとか。

「元々私の専門は、林業やそこで出てくる不要な木材をどう活用するかというところで、2021年6月からバイオマス発電所を稼働させました。木質バイオマス発電所を自社で運営しているというのは、国内の地域電力会社の中では他に見当たらない。正直、収益性という点では厳しいところがありますが、脱炭素に向けてできることをやっていきたい。チャレンジを繰り返しながら、少しずつ知見が蓄積されてきつつあります。」

△バイオマス発電に使用する木質チップ

このバイオマス発電所は、環境教育の一環として、小・中学生が見学に来ることも多いのだそう。また、観光協会と協働して、地域外の修学旅行生を受け入れる取り組みが企画されていたり、外部からの視察依頼が来たりすることもある。

「こうして外の人に来ていただいて説明をするのは楽しいし、何よりこの地域に親和性があり、特色を持った取り組みとして評価してもらえていることが嬉しい。地域の子どもたちをはじめ少しでも多くの人が、自然エネルギーの大切さや、再生可能エネルギー普及に向けた取り組みの重要性、エネルギー自給率の現実を知って、エネルギーや電気について改めて考えたり行動を変えたりするきっかけになればいいなと思う。」

△環境教育の講師をしている様子

少人数、だからこそ届けられる価値

「うすきエネルギーは、設立からしばらく社員2名という体制でやってきました。2024年2月にようやく新入社員を迎えることができ、現在はパート社員も含めて5名でやっています。少人数の職場なので、一人に期待される役割は多くなるが、それを楽しんでもらえると嬉しいなと思います。」

大きな組織の歯車の一つとして働くのではなく、一人が担う範囲が広いからこそ、充実感ややりがいも感じられるのでしょうね。

電気を利用しているお客様にとってはどうなのでしょうか。

「少人数だからこそできることも多いと思っています。2022年、資源・エネルギー庁が「節電プログラム」という一般家庭向けの支援策を打ち出したことがありました。電気を使う人が時間帯をずらしたり使う量を抑えたりして、需要と供給のバランスを保つ協力を行った場合に、割引を受けられるという仕組みです。

当時、電力需給は厳しい状況を迎え、電気代を構成する要素の一つである燃料調整費が上がってきていたタイミングだったので、プログラムに参加していただくことで少しでもお客様の負担が軽くなればと、200件前後の全顧客に対し、手紙や電話で呼びかけを行いました。せっかくうちの会社を選んでいただいているので、大手の電力会社ではできない、顔が見える関係性だからこそできるご提案を行ったことで、お客様には大変喜んでいただけました。」

コンパクトな組織だからこそできる、細やかで温かいコミュニケーションが、うすきエネルギーならではの価値なのですね。

「環境・エネルギーと言えばうすきエネルギー」と言われる存在に

これからも、脱炭素に向けた取り組みにたくさんチャレンジしていきたいと語る小川さん。

自社が持っている資源と他社のアイデアなどを組み合わせて、まだこの世の中にない新しい取り組みをみんなで一緒に創り上げていけるというところがこの仕事の醍醐味であり、そのコーディネートをすることがうすきエネルギーの存在意義だと語ります。

△地域電力について話す小川さん

海も山もあり、自然豊かで美味しい食べ物がたくさんある臼杵市。いつまでもこの地域のよさを守り続けたいというのが、小川さんの想いです。

「地域の中で『環境やエネルギーのことだったらうすきエネルギーだよね』『うすきエネルギーに相談すれば、良い提案をしてくれそう』と言ってもらえるような存在になって、臼杵市をはじめ周辺地域の脱炭素の取り組みを手掛けられるようになっていきたいですね。

小川さんの脱炭素への挑戦は、これからも続いていく。

△小川さんと、このまちで生まれた子どもたち

会社概要

会社名   うすきエネルギー株式会社
所在地大分県臼杵市大字佐志生5154番地の1
会社HPhttp://usuki-energy.com/