福島の人々の「当たり前の生活」を支える、地域のための会社
須賀川瓦斯福島県中部に位置する須賀川市。隣接する玉川村にまたがって福島空港が所在しており、福島の空の玄関口となっています。特撮の神様・円谷英二氏の出身地であり、ウルトラマンを題材にした町おこしの他、日本三大火祭りに数えられる「松明あかし」など、伝統的な行事も多く行われているのだそう。
そんな須賀川市を拠点として、地域の人々の生活を支える総合エネルギー会社を経営しているのが、橋本直子さんです。
橋本さんは、祖父である橋本淳さんの代から続く須賀川瓦斯株式会社の3代目代表取締役社長です。実家の前には会社のガソリンスタンドがあり、小さい頃はそこでよくスタッフの方に遊んでもらっていたのだとか。2代目社長の父・橋本良紀さんから36歳で事業を受け継ぎ、LPガスやガソリン、太陽光発電の他、幅広い事業を展開する会社を支えています。
そんな橋本さんに、これまでのストーリーや仕事の魅力についてお話をお聞きしました。
△橋本 直子さん
△須賀川瓦斯株式会社の社員の皆さん
東日本大震災を機に、帰国
―はじめに、橋本さんが須賀川瓦斯へ入社された経緯を教えてください
「入社のきっかけは、2011年3月に起こった東日本大震災でした。震災が起こったまさにその時、私は成田空港にいたんです。当時私は、イギリスのロンドンにあるファッションブランドで働いており、休暇を使って日本に帰国している最中で、仕事で海外に行く父と一緒にいたところでした。出発前に空港で一息ついていると、突然、これまでに経験したことのない大きな揺れを感じました。混乱する空港の中で、一瞬繋がった母との電話から、福島でもかなりの揺れが起こっていたことを知り、当時社長を務めていた父は福島へ飛んで帰りました。
私はとにかく福島の無事を祈っていましたが、震災は、激しい揺れや津波、さらには東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故によって甚大な被害をもたらし、福島に大きな爪痕を残しました。
元々、私は休暇を終えた後もそのままロンドンで働く予定だったのですが、「これは大変なことになった」と居ても立っても居られなくなり、「故郷のために何かしなければ」という使命感から、福島に戻ることにしました。須賀川瓦斯へ入社したのは、震災が起こった翌月の2011年4月でしたね。」
―被災の経験が、キャリアプランに大きな影響を与えたのですね。震災後は、エネルギー会社としてどのように地域の復興に関わられたのでしょうか?
「震災直後、須賀川瓦斯は太陽光発電事業の立ち上げを決めました。それまでは、エネルギー事業としてLPガスやガソリン・灯油の供給を行ってきましたが、原発事故を経験し、再生可能エネルギーの必要性を痛いほどに感じさせられました。ですが、当時はまだ地域新電力会社の存在は少なく、ノウハウも無いうえ、私たちにとって電気は未知の世界。各部署から集まった社員が一丸となって一から勉強を始め、試行錯誤を重ねて、2012年1月に第一号となる「蒲之沢太陽光発電所」をオープンすることができました。自分たちでも驚くほどのスピードでのオープンとなりましたが、この時の設備規模はわずか10キロワット。おそらく世界一小さな発電所でしたね(笑)。今では、県内の太陽光発電所を100カ所以上に増やし、目標として掲げていた10メガワットを達成することができました。福島を中心に、1万件以上のお客様に電気をお届けしています。
須賀川瓦斯が第一号の太陽光発電所をオープンした後の2012年3月、福島県は「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」を改訂し、復興に向けた主要施策の一つとして、県内の再生可能エネルギーの普及に向けて大きく舵を切りました。福島県の「再生可能エネルギー先駆けの地」の実現を、須賀川瓦斯が力強く後押しすることができていると考えています。」
△第一号の発電所となった「蒲之沢太陽光発電所」
この仕事の面白さ
―会社の大きな転換期にも貢献された橋本さんですが、代表取締役社長に就任された経緯はどのようなものだったのでしょうか?
「2018年8月に、父に代わって代表取締役を引き継ぐことになりました。その3か月後に、父は病気で亡くなりました。晩年、父のそばで共に過ごす中で、私に「地域の人たちの生活なくして、会社は存在しない。地域の人たちに必要とされ、愛される企業となることが大切だよ。」と、貴重な教えを残してくれました。「この会社を潰すわけにはいかない」、そう思った瞬間でした。父から受け取ったバトンを、未来へ繋いでいくこと。これが、社長になった私の第一の目標となりました。」
ー代表を務める中で大切にされていることや、仕事の面白みを感じる部分はありますか?
「父の教えの通り、地域から愛される会社となり、周囲と長く良好な関係性を築くことを大切にしています。弊社は地域のインフラを担っているので、特に災害など有事の際には、地元事業者との迅速で円滑な連携が欠かせません。そのため、地域でのお付き合いを大切にし、互いに対等な取引を行うようにしています。
私は、中学の時にカナダへ留学、高校でマレーシアを訪れたことで、どの地域にもそこにしかない固有の魅力があるということを肌で感じていました。大学では地域活性化や開発について興味を持ち、開発学の発祥の地であるイギリスのUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)へ進むことになったんです。学生時代に多様な国籍の友人たちと交流し、フィールドトリップでアフリカに滞在したりもしました。様々な地域を見てきた私は、持続可能な開発をすすめながら地域の魅力を伝えていける仕事がしたいと考えていました。
その後、長い海外生活を終えて地元の須賀川に戻り、エネルギーの世界に入った私ですが、結果的に今の会社では、インフラで地域を支えながら地域の良さを発信する立場になれているということに気がつきました。
イベントなどで地域の方と触れ合うことができるのも楽しいですね。自分たちのやったことで目の前の人に喜んでもらい、次に繋がっていく。人と関わり、この循環を繰り返していけることが、とても嬉しいです。」
地域とともにある、須賀川瓦斯
―これまでのお話から、「地域に貢献する会社でありたい」という強い思いが感じられました。この考えは、設立当初から続くものなのでしょうか?
「須賀川瓦斯株式会社は、1945年の太平洋戦争終戦後に福島に戻ってきた祖父が、エネルギー需要の拡大を見据えてプロパンガスの販売を始めたことが原点となっています。その後ガソリンスタンドの第1号店を開所し、エネルギー事業を中心に徐々に規模を拡大して、地域のインフラ整備を通じて福島の発展に貢献してきました。代表取締役が祖父から父へ、そして2018年に私へと引き継がれた今もなお、「地域社会に奉仕」を社是として、生活に欠かせないエネルギーを通じて地域を支える役割を担っています。
取引先は一般家庭から福島県庁などの公共施設、民間事業所へと広がり、また供給地域も、東北から関東圏へと拡大してきています。祖父の時代から3世代にわたり、長くお付き合いしているお客様も多いです。
須賀川瓦斯は、エネルギー事業を柱にしながらも、地域のお客様の「当たり前の暮らし」を支える会社として、車検や保険、空調設備販売、酒スーパー、フィットネスジムなど、人々の生活に必要なサービスを幅広く提供してきました。宝石販売や薬局、ファンシーショップなど、時代の流れに合わせてスクラップアンドビルドを行ってきたものもあります。「お客様の必要とするものをお客様の立場になって提供していく」。社訓にも、そう書かれています。
今いる社員の生活を守っていくためには会社を存続させていく必要があり、会社を存続させていくためには、地域を発展させていかなければならない。須賀川瓦斯は、これまでもこれからも、地域とともにある会社だと思っています。」
△ガソリンスタンドのスタッフ
△酒スーパーに商品を搬入するスタッフ
ー会社の発展と地域の発展は、どちらも欠くことのできない両輪なのですね。須賀川瓦斯のこれからの展望を教えてください。
「震災や原発事故を経験したからこそ、福島の人の当たり前の生活が続いていくことがいかに素晴らしいことかを感じることができているのだと思います。須賀川瓦斯はエネルギーを通じて、これからもそれを守っていく役割を担っていかなければならないと考えています。
須賀川瓦斯には、若い人では18歳の社員がいますが、地元の若者の流出は福島でも大きな課題です。しかし、流出を直ちに止めることは難しいので、地域側が関わり方を変えていくしかないと思っています。
須賀川瓦斯では、多様な働き方を取り入れてあらゆる人が適性を発揮できる組織風土づくりを目指し、リモート勤務を試行導入しました。そのほか、シニアの方や障害のある方など、多様な人材に関わっていただけるよう、仕事を細分化したり時短勤務の導入も検討したりしています。時間や場所、雇用形態など、個々の生活事情や価値観を踏まえた柔軟な労働スタイルの確立にチャレンジしていきたいと考えています。
エネルギー業界には、女性がまだまだ少ないのが現状です。しかし、単に女性社員を増やしたいとか、経営層に女性を登用したいということではなく、一人ひとりの個性が輝く社会になっていかなければならないと思います。須賀川瓦斯は、そうした真のダイバーシティを実現する会社の姿を目指していきたいです。」
△電力の変換器を点検するスタッフ
太陽光発電事業への参入や、柔軟な勤務制度の導入などのお話から、須賀川瓦斯は時代の流れや世の中のニーズを早期に取り込み、スピード感を持って変化していける会社だと感じました。社訓の中に「巧遅ではなく拙速に行動」を掲げているそうですが、須賀川瓦斯が全国の地域エネルギー会社をリードする存在となっている秘訣は、ここに隠れているのではないでしょうか。
須賀川瓦斯はこれからも強い結束力を持ちながら、地域とともに発展を目指していかれることでしょう。
会社概要
会社名 | 須賀川瓦斯株式会社 |
所在地 | 福島県須賀川市卸町44 |
会社HP | https://www.sukagawagas.co.jp |