Introductory Article

団体紹介記事

秩父のゼロカーボン実現を推進する、陰の立役者

秩父新電力

埼玉県の秩父地域。ここは埼玉県北西部の秩父山地に囲まれた地域で、秩父市をはじめ、皆野町、小鹿野町、長瀞町、横瀬町の1市4町で構成されています。埼玉県を横断する荒川の上流部に位置し、流域に住む3千万人の生活を支える荒川水系の水源となっており、水資源が豊かであることから、ダムが4つ、水力発電所が9か所あります。

そんな秩父地方を事業範囲として、電力小売事業や、再生可能エネルギーを利用した電力の発電・売電および買い取り、地域電力事業を活用した地域や産業の活性化事業に取り組んでいるのが、秩父新電力株式会社です。

私たちの生活に欠かせない電気。

その電気を安定的に供給するために重要な役割を果たしている、「需給管理」という仕事があるのをご存じでしょうか?

今回、お話を伺うのは、秩父新電力で需給管理部のマネージャーをされている帶川恵輔(おびかわけいすけ)さん。

全国の地域新電力の中でも自社で需給管理をしている会社は数少なく、外部に委託している会社が多いのだそう。なぜ秩父新電力では、自社で需給管理を行っているのでしょうか?

帶川さんに、その理由や、秩父新電力でのお仕事についてお話を伺いました。

△帶川恵輔さん

「需給管理の内製化」で、秩父をGOODに

需給管理とは、簡単に言うと、電力の需要量と供給量を予測し、バランスを保てるように管理すること。天候や過去の実績などから需要量の計画を立てたり、入札による売買取引や、当日の供給量の監視などを行ったりするのが、主な業務です。

普段私たちは意識をすることもなく、電気を使いたい時に使っています。しかし、電力は蓄電池がなければ貯めておくことができないため、需要量と供給量は常に「同時同量」(同じタイミングで同じ量であること)である必要があるのだそう。

発電量が多すぎる・少なすぎる、電力需要が急激に増える・減るといった電力需給の偏りが生じると、大規模停電(ブラックアウト)につながる可能性があります。そのため、電力小売事業者や発電事業者は、「同時同量」を守りながら、日々継続的に発電と供給の調整を行わなければなりません。

外からは見えにくいですが、電力の安定供給に欠かせない、とても重要な仕事なのですね。

秩父新電力が需給管理業務を自社で行っているのは、「エネルギーの地産地消」「地域経済の活性化」「ちちぶ地域の課題解決」による持続可能なまちづくりを行うという経営理念に基づいたもの。

需給管理を内製化(自社内で行うこと)すると、自社で電力の仕入れ先を決められるため、再生可能エネルギーの割合を増やすことができます。また、地産電源や地域雇用を増やすことにもつながり、環境・社会・経済、いずれにとってもGOODな状態を目指せるというわけです。

実際、秩父新電力では、再エネ比率37%・74%・100%の3つのプランを作り、そのいずれでも地産電源率は55%となっています。この地産電源率は、全国の地域新電力の平均よりも高いのだそうですよ。

△秩父新電力のスタッフの皆さん

地域新電力は、地方の希望

そんな需給管理を行うチームを取りまとめている帶川さん。帶川さんは、秩父新電力に入社されて6年目になります。

帶川さんが地域新電力の世界に入った理由は何だったのでしょうか?

「私は長野県の出身で、実家が農業をしていました。自然が美しく、飲める湧水が出ているなど、資源が豊富な地元が好きでした。高校生になると将来のことを考え始めましたが、地元の大人の多くが、『ここには仕事がない』『若者が東京に出て行ってしまうのは仕方ない』という考えだったんです。

本当にそうなのだろうか?と疑問を持ち、資源が豊富にあるのに活用されていないという現実と、人が魅力ある地域から出て行ってしまっているという事実に対し、何とかできないのだろうかと思うようになりました。

こうして地域による産業やくらしの違い、地域にある資源について興味を持ち、高校を出て東京の大学で地理学を学んでいたところ、大学3年生の時に、2016年から始まった電力自由化の流れを受けて、全国各地で地域新電力という新しいビジネスモデルが出始めたことを知りました。地域にある資源を活用して生み出したエネルギーを活用して、地域の経済を回す。まさにふるさとのような地方の希望に出会ったようでした。」

△大学の研究室の視察対応をする帶川さん

帶川さんのご出身は長野県ですが、埼玉県の秩父新電力に入社されたのは、何かご縁があったのでしょうか?

「大学のゼミでは、地域新電力を研究対象としていました。ある時、ゼミの教授を通じて、実習先だった地域新電力の立ち上げを支援する東京の会社でのインターンの話が舞い込んで、学生をしながら会社に入ることになったんです。そこで、地域新電力立ち上げにかかる調査代行や3カ年の事業計画立案に関わらせてもらいました。

その会社としては、計画を作るまでが役割だったのですが、作ったら終わり、ではなく、地域新電力会社がその場所で事業を続けていけなければ意味がないと考えるようになりました。東京でこの役割をしているだけでは、地方が良くなっていくイメージが湧かなかったんです。

そんな時、当時の上司が、今の会社を退社して、支援で関わった秩父新電力へ行くことになり、「一緒に来ないか」と声をかけてもらいました。その上司が、現在の秩父新電力のCOOです。また、入社前に秩父を訪れた際に、当時秩父市役所の職員で現在の社長に案内をしていただき、秩父には作った計画をちゃんと動かしていける人がいるなと感じました。そんな人たちと一緒に地域新電力の新たな可能性にチャレンジしてみたいと思ったのが、入社のきっかけです。」

にこやかで柔らかい印象の帶川さんですが、その目の奥には、ふるさとや地方を良くしていきたいという熱い想いを感じます。

△代表取締役の新井さん(中央)と帶川さん(右)

リスク管理が全国の手本に

「近年では2度、電力の市場価格の高騰がありました。大寒波やロシアによるウクライナ侵攻など、時には予測のしようがないような、また日本だけでなく世界的な範囲で起こる様々な要因が、エネルギーの需給バランスへ影響してきます。

電力事業を続けていくにあたり、これらのリスクは避けて通れませんが、秩父新電力ではできる限り需要予測の精度を上げ、しっかりとリスク管理に取り組んでいくという方向性を決めました。」

そのやり方は、仕入れ価格と小売価格を比較しながら価格リスクを数値化し、自社のリスク管理方針のもと、リスクが許容範囲内に収まるように調整を図っていくというもの。

将来のリスク量を把握するため、目先だけではなく翌年度までの需要想定を行うとともに、毎月社内でリスク管理会議を開き、確認・見直しを行っているのだとか。

とても緻密で、緊張感の伴う作業ですが、こうして見えないところで電力の安定供給を図ってくださる人がいるから、私たちは安心して電気を使うことができているのですね。

こうした秩父新電力のリスク管理の取り組みは、中小規模の新電力会社における先進事例として、経済産業省の委員会で取り上げられたのだそう。国においても、この事例などを参考に、電力の安定供給を実現できるよう議論が重ねられています。

△秩父市役所の近くにある、会社のオフィス

秩父のゼロカーボン実現に向けて

「秩父新電力が調達する電力は、再エネ比率(調達電力に占める再生可能エネルギーの割合)が高いのが特徴です。電力需要の高い東京エリア全体では平均18パーセントほどと言われているところ、秩父新電力は50パーセントくらいです。

でもそんな秩父でも、森が吸収する温室効果ガスの量と排出量とを比べると、圧倒的に排出量の方が多い。ゼロカーボンの実現には、途方に暮れそうになるほどやらなければならないことが山積み。まずは、この大きな目標を共有できる仲間を集めることから始めていきたいです。」

ゼロカーボンの実現に向けて様々な取り組みを進めていくには、もっとたくさんの人のパワーが必要なのですね。この仕事はどんな人におすすめしたいですか?

「ゼロカーボンという目標は決まっていますが、手段は何も決まっていません。手段が決まっていて、自分でなくてもできる仕事とは違って、やりたいことを企画して何でもできる自由度の高さが、この仕事の魅力だと言えます。ゼロカーボンに向けた取り組みはすぐに成果が出るものではありませんが、長い目でその過程を楽しめる人におすすめです。

うちの会社はリモートワークができたり時差勤務ができるなど、働きやすい環境が整っていて、子育て世代の方も活躍されていますよ。」

自然に恵まれ、心地よく過ごせる秩父での暮らしが気に入っているという帶川さん。いつまでもこの住みやすい環境が続くようにと、これからも秩父の未来を見つめて挑戦を続けられることでしょう。

△高校生向けに秩父の取り組みについて話す帶川さん

会社概要

会社名     秩父新電力株式会社
所在地埼玉県秩父市熊木町9番5号 秩父ビジネスプラザ
会社HPhttps://chichibu-pps.co.jp/