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団体紹介記事

地域生まれのエネルギーで、日置の人々の生活の質の向上をめざす

ひおき地域エネルギー

鹿児島県日置市は、県の中央部(薩摩半島)に位置する市です。南九州西回り自動車道やJR鹿児島本線により隣接する鹿児島市とのアクセスが良く、鹿児島市のベッドタウンとしても発展しています。

便利でありながら山と海に囲まれた自然豊かな環境で、暮らしやすいまち。温泉があるのも魅力の一つです。知らない人にもフレンドリーな地域柄で、道を尋ねたらキャベツを3つもらった、なんてこともあるのだそう(笑)。

そんな日置市で、地元企業が主導し、「日置に地域電力会社を作る」という強い想いのもと立ち上げられた会社が、ひおき地域エネルギーです。

こちらで「エネルギーの地産地消」と「再生可能エネルギーの推進」に取り組んでいる代表取締役の中尾さんと、営業・企画担当の天辰さんに、日置の未来に向けた会社の取り組みなどについてお話を聞きました。

△ひおき地域エネルギーのオフィス

設立のきっかけ

―ひおき地域エネルギーの立ち上げは民間主導ですすめられたということですが、どのような経緯で設立されたのでしょうか?

中尾:

2013年に、日置市におけるエネルギーの地産地消と再生可能エネルギーの活用・導入を推進することを目的として、「ひおき小水力発電推進協議会」が発足されました。この産・官・学が連携する組織により市内で小水力発電所立ち上げに向けた調査が始まったのですが、その後発電所を置く河川が決まり、小水力発電事業の実施主体としてひおき地域エネルギーを設立し、事業を受け継ぐ形となりました。

設立にあたっては、地元企業による強い結束力のもと、市役所や地元金融機関を巻き込んで推進してきました。市役所とは、「地域外に流れているエネルギー代を地域内にとどめることで地域活性化につなげていこう」という話し合いを重ねた上で、それに市としても納得する形で進めていくことができました。ひおき地域エネルギーの株主となっている会社は、利益追求だけでなく、地元に貢献したいという思いを持つ会社が多いです。

△永吉川水力発電所

2019年にはコンパクトグリッドの運用を開始し、グリッド内で発電から送電を行い小売りと組み合わせて電気の供給を行えるようになりました。これは全国の地域電力会社の中でも先進的な取り組みです。電気事業を通して日置の地域経済の発展に貢献するとともに、電気の販売を通じて、利益の一部を地域に還元しています。

電力の供給を開始した当初は、市役所や公共施設からスタートしましたが、徐々に事業所や一般家庭などにも広がり、今では公共・民間それぞれ約半分ずつの割合となっています。

△(代表取締役の中尾さん)

ひおきの未来のために

―電気代の利益の一部を活用した地域への還元とは、具体的にどのような取り組みを行っているのですか?

天辰:

ひおき地域エネルギーの電気事業で得られた収益の一部は、「ひおき未来基金」として積み立てられています。これまでには、赤ちゃんが生まれた家庭に対して新生児用品を配布する事業や、関係人口拡大事業など、日置の未来につながる取り組みに使われてきました。

△赤ちゃんが生まれた家庭に贈られるマタニティBOX

お客様の声がきっかけで生まれた取り組みもあります。新規のお客様のところへ営業に行った際、ひおき地域エネルギーのプランを提案したところ、「ほかの会社はコロナお見舞金などあるよ?」と言われたことがありました。それを聞いて、大手電力会社とは違う、地域新電力だからこその価値を創り、これに対抗したいと考えたんです。

そこで生まれたのが、「地域循環プレゼント」です。「地域循環プレゼント」とは、契約者の中から毎月抽選を行い、地元の農産物や特産品などをプレゼントするというもの。プレゼントは、ひおき地域エネルギーの電気を使ってくださっている市内事業者の商品を買い取り、使用しています。

これまでには、地元産の野菜やマンゴー、醤油、温泉入浴券などを、メッセージを添えて当選者へお渡ししてきました。すべてではないですが、対面で直接お渡しに行くこともあります。

訪問で地域を回っていると、意外と住民にも知られていない、地産の素敵な商品を見つけられることがあるんです。

事業を通じてこれらの良さが住民に伝わり、橋渡しができていることは嬉しく思います。

SDGsと働きやすい環境づくり

―ひおき地域エネルギーは、全国のエネルギー会社の中でも先進的な取り組みを行う会社として注目を集めているそうですが、その代表的な取り組みは何でしょうか?

中尾:

最近では、全国各地、時には海外からも、視察のために日置に来てくださるようになりました。皆さんが注目されているのが、「ひおきコンパクトグリッド」です。

コンパクトグリッドとは、複数の施設を電線(自営線)で繋いで、電気を効率よく利用する仕組みのこと。グリッドが電気を一括で受けとると同時に発電を行い、発電の際に発生した熱を効率よく利用することで、電気代の削減も期待できます。

日置では、2019年から2つのコンパクトグリッドが稼働しています。市役所や公民館などを含む「行政エリア」、病院や健康づくり施設などを含む「福祉エリア」の2か所でグリッドを組み、さらに2つのグリッドをEMS(エネルギー需給を管理・調整するシステム)で結ぶことで、互いに電気を融通し合い、電力供給の安定性も確保しています。

地産により電気の仕入れ原価がないことで、従来よりも低廉な料金で提供することができ、その収益で地域内に経済循環を生み出すとともに、電力供給事業に関わる新たな雇用の創出にもつながっています。

国内の他の地域では、元々何もない更地にコンパクトグリッドを作る事例はありますが、既存の施設に電線を張りなおして供給したところは例がありませんでした。

この日置での取り組みを参考にして、他の地域でも少しずつ地域新電力が増えたり、再生可能エネルギーの活用が広がったりするきっかけになれば、嬉しく思います。

△(ひおきコンパクトグリッド)

新たな取り組みと再エネ人材育成拠点の構築

―日置市は脱炭素先行地域として選定されたそうですが、今後はどのような取り組みを行っていくのでしょうか?

中尾:

日置市は、ひおき地域エネルギー、地元ガス会社、地元金融機関とともに共同提案を行い、2024年に脱炭素先行地域として選定されました。

その提案では、人口減少が著しい吹上地域で、住宅や事業所の屋根および未利用地や耕作放棄地などに太陽光発電を最大限導入するとともに、ベース電源としてらせん水車などを活用した小水力発電設備を設置し、再エネ電力を供給するなど、新たな脱炭素事業を創出しながら、地域の脱炭素化を目指すというビジョンを掲げています。

さらに、地元の吹上高校に向けて、生徒への電動自転車・電動バイクをレンタルしたり、(※環境教育を実施したりすることで、)再エネ関連企業への安定した就職につなげるべく※、入学者の増加と再エネ人材育成拠点の構築を目指していきます。

選定にあたっては、自治体と地元企業などとの協力体制が整っている点と、小水力発電所やマイクログリッドなどのこれまでの実績が評価されたのだと思っています。

2028年までの5年間で、太陽光発電や小水力発電の新しい設備も作っていきます。引き続き関係機関との連携を図りながら、新たな取り組みにチャレンジしていきたいです。

△脱炭素先行地域認定証授与式の様子

家族や親戚のような存在に

―こうして常に新たなチャレンジを続けているひおき地域エネルギーですが、会社の雰囲気はいかがですか?

天辰:

ひおき地域エネルギーは、専門家集団というより、メンバー皆で話し合いながら事業を進めている会社です。社内体制は代表も含めて6名の多様なメンバーで、それぞれの得意分野を活かして助け合う気風があります。

私は電気の技術的な部分には詳しくないのですが、例えば、地域で行うイベントのために、TTゲージ(レールの幅が12ミリの鉄道模型)を手回し発電で動かせないかという私のアイデアに、専門知識のあるメンバーが実現に向けて協力してくれたりします。

また、日頃からお客様と顔の見える関係性を築き、社員皆が取り組みの向こう側にいる人の顔を思い浮かべながら仕事をしていることも、私たちらしさだと思います。

私は仕事柄、お客様のところを訪問することが多いのですが、道端で出会うと手を振って話をするほど、家族や親戚のような親しみを感じています。地域の方からお困りごとなどの相談をされることも多いですね。

日置市の課題とこれから

中尾:

日置は適度な田舎で、休日には子どもと山登りや釣りをして楽しむことができます。子育て環境の良いこのまちでの暮らしが、ずっと続いてほしいと願っています。

一方で、日置には大学や専門学校がないので、このまちの子どもたちは高校卒業後、外に出ると帰ってこないという現状があります。「魅力的な仕事がない」というのが主な理由で、統計上、一度地域外に出た若者は半分以上が帰ってこないそうです。

出ていった若者がまた日置に帰って来られるような状態を作るために、例えば、住みたい場所に住みながら仕事ができるという、起業支援のようなサポートができたらと考えています。

天辰:

街中を歩いていると、一部では人が減ってきているように感じるエリアもあります。そこに住んでいるお年寄りは不便になると思うので、年を取ってからも安心して暮らせるまちになればと思います。

今後、自治体や社会福祉協議会、宅配サービス事業者などと連携し、一人暮らしの高齢者の見守り事業をやりたいと、構想を膨らませているところです。

△ひおき地域エネルギーの社員の皆さん

お客様との対面でのコミュニケーションを大切にされていたり、地場産品をプレゼント企画に活用するなどされている姿から、ひおき地域エネルギーの皆さんの地元を大切に想う気持ちが伝わってきました。

今後、脱炭素先行地域にかかる取り組みなどを通して、鹿児島から、全国の地域エネルギー会社の先駆者としてさらに飛躍されていくことでしょう。

会社概要

会社名     ひおき地域エネルギー株式会社
所在地鹿児島県日置市伊集院町妙円寺2-54-10
会社HPhttps://www.hiokienergy.jp/